前回は、Accessから他のツールへ移行するメリットや、Google Workspace(旧G Suite)の全体像についてお話ししました。Accessのサポート期限問題や、共同作業の難しさといった課題を解決するために、Google Workspaceが非常に有効なツールであることをご理解いただけたかと思います。
今回は、いよいよ移行の最初のステップ「どの顧客情報を移行するか」について具体的に見ていきましょう。
「全ての顧客データを一度に移行しないといけないの?」と不安に思う方もいるかもしれませんが、ご安心ください。大切なのは、「何のために移行するのか」を明確にし、優先順位をつけて少しずつ進めていくことです。
ステップ1:顧客情報の現状を洗い出す
まずは、現在Accessで管理している顧客情報がどのようなものか、全てリストアップしてみましょう。Accessはテーブルだけでなく、フォームやクエリ、レポートといった様々なオブジェクトで構成されています。これらすべてが、あなたの業務を支えています。
- ・どんな情報がありますか?
- Accessのナビゲーションウィンドウを見て、すべての「テーブル」「クエリ」「フォーム」「レポート」を確認してください
- ・その情報は「何に」使われていますか?
- それぞれのオブジェクトが、どのような業務(例:営業活動、顧客サポート、経理処理など)で使われているかを確認します。
例えば、以下のように書き出してみると、状況が整理しやすくなります。
Access オブジェクト名 | 種類 | 主な利用目的 | 項目 |
---|---|---|---|
顧客マスタ | テーブル | 顧客の基本情報管理 | 会社名、住所、電話番号、担当者名、最終商談日、商談担当者、ステータス(見込み/契約済など) |
商談履歴 | テーブル | 商談内容の記録 | 商談日時、商談相手、商談内容、次アクション |
営業日報入力 | フォーム | 日報の入力 | 日付、訪問先、商談内容、次回アクション |
月次営業報告 | クエリ/レポート | 営業報告資料の作成 | 担当者別売上、商品別売上、新規顧客獲得数 |
ステップ2:移行の目的と優先順位を決める
次に、洗い出した情報の中で、特にGoogle Workspaceに移行したいものを絞り込みます。以下のポイントを参考に、ご自身の業務に照らし合わせて考えてみてください。
- ・「共有したい」情報
- 複数の担当者でリアルタイムに更新したい顧客リストや、チーム全体で共有したい問い合わせ記録など。もし「誰かがAccessファイルを開いていると他の人が更新できない」といった状況があれば、その部分は最優先で移行を検討しましょう。
- ・「外出先で使いたい」情報
- 営業担当者が訪問先で確認・更新したい顧客情報や、カスタマーサポートの担当者が外出先で問い合わせ履歴を確認したい場合など。もし「外出するたびに社内PCからデータをエクスポートしている」といった手間が発生していれば、移行の大きなメリットになります。
- ・「入力作業を簡単にしたい」情報
- 展示会で名刺をいただいた際の入力作業など。Accessを立ち上げる手間を省き、スマートフォンからでも簡単に入力できます。もし「手書きでメモを取った後、会社に戻ってから手入力している」といった二重作業が発生していれば、Google フォームの導入は劇的な効率化につながります。
- ・「レポート作成を自動化したい」情報
- 「月次営業報告」のように、定期的にデータ集計やグラフ作成を行っている情報です。毎月手動でクエリを実行し、Excelに貼り付けてグラフを作り直す、といった手間が発生していませんか?これは、Google スプレッドシートの関数やグラフ機能を活用することで、リアルタイムで自動的に集計・可視化できるようになり、大幅な時間短縮につながります。
ステップ3:移行する項目を最終決定する
移行したい「機能」が明確になったら、その機能をGoogle Workspaceで実現するために必要な「項目」を最終決定します。
例えば、「月次営業報告」をGoogle スプレッドシートで自動化したいとします。このレポートには「担当者名」と「売上」のデータが必要です。
- したがって、まずは売上データが格納されている「商談履歴」テーブルを移行する必要があります。
- さらに、「担当者名」が「商談履歴」テーブル内にない場合は、関連する「顧客マスタ」テーブルや、担当者情報を管理する別のテーブルも一緒に移行する必要が出てきます。
このように、「どのようなレポートやフォームが必要か」という視点から逆算して、移行すべきテーブルや項目を洗い出すと、よりスムーズに計画が進められます。
複雑そうなら?:移行の判断基準
もしAccessで管理している顧客情報が非常に複雑なリレーショナルデータベースになっていて、移行が難しそうだと感じた場合は、以下の点を考慮して判断しましょう。
部分的な移行: 複雑な基幹データはAccessに残しつつ、頻繁に更新・共有する「顧客マスタ」や「商談履歴」など、シンプルな部分だけをGoogle スプレッドシートに移行する、という方法もあります。こうすることで、まずはクラウドツールの便利さを実感し、慣れていくことができます。
専門家への相談: 「AccessのマクロやVBAをどうすればいいか分からない」「複雑なクエリの移行方法がわからない」といった場合は、ぜひ私たちシステムエンジニアリングにご相談ください。現状をヒアリングさせていただき、最適な移行方法をご提案します。
次回は、いよいよ具体的な作業に入ります。今回洗い出した「顧客マスタ」や「商談履歴」のデータを例に、第3回では「Accessの顧客データをGoogle スプレッドシートに引っ越そう」をテーマに、AccessからCSVファイルにエクスポートし、スプレッドシートにインポートする具体的な手順を解説します。
AccessからGoogle Workspaceへ の記事一覧
- 第1回:Accessから他のツールへの移行:なぜ今、古いシステムを見直すべきなのか?
- 第2回:移行の第一歩!どの顧客情報をGoogle Workspaceへ移すか決める
- 第3回:Accessの顧客データをGoogle スプレッドシートに引っ越そう
コメント